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世界遺産指定取り消しの原因となったWaldschloesschen(森の小宮殿)橋の建設

160年の歳月を超えて続く議論

経緯
この橋はすでに3本の橋がある市の中心部(旧市街)と東部郊外にある Blaues Wunder橋の間に建設が予定されているもので、実は建設計画はすでに1859年からあり、予定地周辺の道路建設や土地利用は159年も前から建設を見越して計画されてきたものです。
この間、橋の建設は財政事情や戦争などのためなかなか実現せず、東西統合後の1994年にようやく市議会で建設が決定し、設計図もでき、建設の認可も下りていました。そして、市内ではこの橋に繋がる道路の改修も始まっていました。
しかし、市の財政難などから建設計画の見直しのを求める声が高まり、2004年9月の市議会選挙後にPDS、緑の党およびSPDからなる多数派によって予算措置が否決されてしまいました。

これに対して、建設を求める市民のイニシアティブで建設のための住民投票を求める署名運動が展開され、この運動によって住民投票に必要な8万2,000に及ぶ署名が集められ、2月27日の住民投票で決定するととが決まったものです。
住民投票で橋の建設が決定するための条件は、有権者数39万8,274名のうち25%、すなわち9万9.569名が賛成することで、住民投票にいたるまでの期間、賛成派、反対派がそれぞれ経済効果や環境問題などの面から活発なキャンペーンを展開しました。

住民投票当日の日曜日は雪が激しく降ったりやんだりの天気で、特に最低10万人の賛成票を獲得しなければならない賛成派にとっては結果が危惧されるところでしたが、結果は、賛成が13万7,152票(67.88%)、有権者数に対する賛成率:34.4%と賛成票が必要数を大幅に上回って、住民投票は賛成派が制しました。
この住民投票で特に注目されるのは50.8%という高い投票率で、前年秋の市議会選挙の投票率を4.8ポイントも上回ったことでしょう。政治に対するドイツ人の関心は近年とみに低下しているようですが、身近な問題にはなお参加の意識が強いといええるかと思います。ちなみに、無効票は402票にとどまったということです。
なお、ドレスデン市の南側を通ってプラハに至るアウトバーンA17号の建設をめぐって1995年に実施された住民投票でも68%(有権者数の35%)が賛成し、今回の投票結果とほとんど同じでした。
しかし、ドレスデンが近代的なデザインの橋の建設を決定したことで、UNESCOはエルベ渓谷の景観が変わってしまうとして既に決定していた世界遺産への登録を取り消す警告、2006年にレッド・リストに入れ、それを機に改めて反対派が様々な方法で建設阻止の運動を展開してきました。
その間、橋に代えてトンネルとするなどの案も検討されましたが、財政面のめどが立たず、当初案に基づいて建設工事が進められています。

橋の概要
1.位  置: 北側(右岸)はWaldschloesschen醸造所(ビアホール)周辺と南側 (左岸)のFetscher Strasseを結ぶ位置。
2.全  長: 636m, 中央のアーチ型橋脚間の長さは135m
3.総工費; 1億5,700万ユーロ(州:9,600万ユーロ、市:2,310万ユーロ)
4.工  事: 2005年春から準備、同年秋から工事開始。
5.完  成:: 順調にいけば2008年2月。
写真;右上は賛成派のポスター、左上は反対派のポスター。反対派のポスターには「高価な橋よりも、子供たちに教科書を」とあります。

その後
2009年6月25日、UNESCOはドレスデン・エルベ渓谷を世界遺産リストから削除することを決定。歴史的な建造物や町並みの再建に努めてきたドレスデン市や市民にとっては市の経済を支える柱の一つである観光業の将来を考えると「世界文化遺産」のタイトルを失うのは残念というほかありません。

しかし、市民の間には生活水準の改善に伴って一層の利便性を求める声も多くあります。地元紙のSaechsische Zeitung がUNESCOによる決定を前に行った市民500人に対するアンケート調査では「世界遺産のタイトルはドレスデンにとって不可欠」と答えたのは41%で、「タイトルは不可欠ではない」と答えたのは57%という結果であったとのことです。
かくいう当管理人もドレスデンに住んでいた当時は、橋ができれば空港など市の北部、さらにはベルリンなどへ行くのに便利になることなどから、市の経済的発展には橋の建設が望ましいと思った一人です。

観光都市ドレスデンへの影響については、関係者は歴史に培われ、積み上げてきた文化都市の価値に何ら変わりがあるわけではないとして、楽観視する向きが多いようですが、市ではたとえば聖母教会など、橋とはかかわりのない施設や地域について、改めて世界遺産登録を申請できないかといった点も含めて、対応が検討されているようです。
以上
           
  -- ドレスデン情報ファイル .2009.06.27 --