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ドレスデン情報ファイル

ドイツの政治制度

ドイツの選挙は日本とこんなに違う


~民主主義の仕組みは党首や党役員の選挙にも~



 ドイツの連邦議会選挙が日本の衆議院選挙と根本的に異なる点は、立候補者が党員による自由選挙で選ばれることだ。
 党本部による公認といった仕組みは存在せず、民主主義は立候補者の選出に始まり、選ばれた議員に対する党議拘束や派閥による締め付けもない。何事も合意が前提である。

静かな選挙風景

 ドイツでは2021年9月26日(日)の連邦議会議員選挙を控えて、国民の支持率が拮抗するキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)、ドイツ社会民主党(SPD)それに連合90/緑の党(Bündenis 90/Die Grünen)が三つ巴の選挙戦を展開している。
 さぞや街宣車や街頭演説もあちこちで展開され、騒がしいことだろうと想像される方が多いのではないだろうか。

 実際は決してそうではない。近年は各党首相候補によるTV討論やSNSを利用した選挙運動が注目されるようになっているが、日常で目につくものといえば、各党がそれぞれ首相候補の顔写真をあしらって街の大通りの緑地帯に掲げている大きなポスターくらいのものである。それ以外では、街の集会所で開く候補者の討論会、候補者が教会の集会所やどこかの部屋を借りて、関心のある人たちに集まってもらって支持を訴える集会のほか、戸別訪問が認められている。激戦区ともなると候補者が繁華街やショッピングセンターの広場に小型のテントや日傘を立てて、パンフレットを配ったり、話しかけてくる人に答えたりするといった風景を見かけることはある。
 選挙運動に拡声器を使うことは道路交通法で制約されているが、可能である。しかし、実際に拡声器を使用して街頭演説を行ったり、街宣車を街中で走らせたりしたのは戦後の一時期のほかに右翼政党や過激な政党が行った例があるくらいだ。静かなドイツの街ではそんなことをすればかえってひんしゅくをかってしまうだろう。
 一般に政党本部が選挙運動のため手当する資金はほとんどなく、あったとしてもわずかな額のようだ。

ドイツの選挙の仕組み
 
 ドイツの連邦議会選挙では第1票と第2票があり、それぞれ299人、合計598人が選出される。第1票では299ある選挙区のうち、自分が所属する小選挙区の候補者に投票し、各党候補者の中で最も得票数の多かった候補者1名が当選する(直接選出)。第2票では支持する政党を選ぶ。各党は第2票の得票率に応じて州ごとに議席数を割り当てられるので、かねて用意していた候補者リストの順番に当選者が決まる(比例選出)。
 ただし、第1票で獲得した議席数が第2票に基づいて配分される議席数を上回る政党については議席が追加されるため、結果的に議席数が定員を大きく上回ることがある。実際にこれまでの連邦議会議員数は709人にもなっていた。

投票で選ばれる立候補者

 ドイツの選挙の仕組みは一見日本とそれほど大きく違わないように見える。しかし、日本と基本的に異なる点がある。それは、立候補者の立て方である。日本では通常、立候補者は「公認」などの形で政党本部によって指定される。しかし、ドイツでは立候補者は選挙で選ばれる。日本でも公認にあたっては県連からの推薦といった手続きもあり、その点で立候補者は一定の手続きを経て選ばれるといえる。
 しかし、ドイツの場合は連邦選挙法に基づいて、299の選挙区ごとに選挙管理委員会による監視の下で当該選挙区内の党員による厳正な選挙を行い、立候補者を選出しなければならない。選挙は正当な手続きで選ばれた代議員によることもできる。
 州ごとに比例リストに入れる候補者や順位も同様で、投票で決めなければならない。
 したがって、時には党本部として望ましくない人物が立候補者に選ばれることさえある。現に2021年選挙でも極右翼的な言動やメルケル首相批判で知られる人物が東部ドイツでCDUの候補者に擁立され、TV討論会でこれに関する意見を求められた同党のラシェット首相候補が苦境に立たされる場面もあった。

連邦議会議員は誰の指図も受けず、自らの良心にのみ従う

 候補者が小選挙区の末端を含む党員の選挙で選出するという方法は民主主義を根底から貫くための方策である。その結果、政党の幹部といえども抵抗勢力や造反者は次の選挙で公認しないといった形で党員を統率することができない。
 その上、ドイツ基本法第38条第1項には「議員は国民全体の代表であり、委託や指示に拘束されず、自らの良心にのみ従う」と明記され、党幹部といえども基本的にはいわゆる「党議拘束」かけることができない。政治を行っていくには権力ではなく、あくまでも民主的な合意形成が求められるのである

政党内での民主主義

 ドイツの政党においては政党法に沿って、党首をはじめ、各レベルの役員も基本的に党大会において党員による投票で選出される。
 メルケル首相が所属するキリスト教民主党を例にとると、役員の選出にも詳細な手続きが定められていて、党首、5名の副党首、監査役、幹部会および理事会メンバーなどはいずれも2年毎に開催される党大会で選出される。党大会を構成するのは国会議員であるかないかにかかわらず、党員の中から選ばれた1,001人の代議員である。1,001人のうち1人は海外支部に充てられるが、それを除く1,000人は党員数および前回選挙の得票率に応じて16の州支部に割り当てられる。各州支部はこれを州内の地域支部、地区支部に振り分けて、それぞれ末端党員も参加する選挙で代議員を選出する。
 結果として、連邦議会や州議会さらには市町村議会の議員が党大会の代議員に選出されることが多いようだが、一般の党員も少なくない。
 1,001人の代議員が党大会で持つのは各1票である。党員である限り、国会議員も州議会議員も一般の党員も1票の重みは同じであるのが民主主義だという考え方である。
もちろん、州支部としてどの党首候補に投票するかといった打ち合わせも行われるが、党内には青年部、女性グループ、中小企業派といったグループもあり、結局は代議員が自らの意思決定で投票することになる。ドイツ政党は党員の総意で成り立っている

 次回はドイツにおける政党の役割を取り上げる予定。



更新:2021.09.15